【無料ノベル】月明かりの径(みち)~後編~

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「その意気だ。グイグイ飲むんだぞ」

「やめてよ。吹き出したらどうするの。あなたも飲んだら。この水とってもおいしいわ」

「ああ、そうだね」

ユウジはいつにもなく陽気だった。こんなに屈託なく笑うユウジを久しぶりに見て、玉緒の気持ちもフッーと安らいだ。

「ちょっと歩かないか?」

「私もそう思ってたの。今日は以心伝心ね?」

「”今日は”は余計だろう?しょうがない人だね」

「そうね」

「玉緒、明日はお休みなの?」

「そうよ。どうして知ってるの?」

「君がさっきそう言ったから」

「私、物忘れがひどくて・・・もうおばあちゃんね」

二人は顔を見合わせて笑った。風が心地良かった。

「いいさ、そんなこと。それより僕も明日は休みなんだ。今日は鎌倉で一泊しないか?」

「着替えも何も持ってないけど、いいの?」

「いいよ。これできまり」

ホテルにチェックインしてから、二人は自転車に乗った。玉緒が最後に自転車に乗ったのは、高校3年生の時だった。ユウジについていくのがやっとだったけれど、素敵な風景のなかをユウジと自転車に乗って走るのは、幸せだった。それから今度は近くのお寺へ散歩した。

「落ち着くわね。呼吸がゆっくりと深くなるのがわかるわ」

鳥のさえずりが聞こえた。

時計はいつの間にか7時を回っていた。晩ご飯は、ユウジの知っているお店で和食をいただいた。

「歴史のありそうなお店ね」

「親父の知り合いなんだ。料理は保証するよ」

(親父の知り合いって、どういうことなんだろう?今更出るわけにもいかないし・・・)

食事はとてもおいしかった。お店の照明は訪れる人の心を優しく開くようだった。玉緒もいつしかユウジと共に寛いでいた。

外に出るとすっかり暗くなり、月が浮かんでいた。月明かりのした、肩を抱き寄せられたり、手を繋いだりしながらユウジと歩いていると、まるで夫婦のような気がした。

玉緒は孤独を知ってから、もっと心から、真剣に、人を愛せるようになった。

だからか、孤独を知っている人の愛は、信じることができると思った。

ユウジのなかにはそれが見えた。その匂いがした。

今があればそれでいいと、玉緒は思った。

アジサイが月明かりの径(みち)に照らされて、たたずんでいた。