【無料ノベル】月明かりの径(みち)~中編~

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あっけらかんとユウジとの未来を夢見ることはなかった。

「もしも私に、独身の好きな人ができたら、別れてね」

「別れないよ」

「あなたにその気がなくても私は行くわよ」

「その時は追いかけるよ」

「嘘。あなたは追いかけてなんて来ないわよ」

言葉遊びみたいにそんな会話をした。

一時の火遊びとはよく言ったものである。まるでその通りよ、と自虐的に思いながら、なんだかおかしくなって笑った。

(今、ここに人がいたら、頭がおかしいと思われるのかしら?たぶん気付かないわね。だって私、気付かれたくない時は、気配を消せるもの)

一日のなかで、わずかにユウジを忘れられる時間があった。その時は、やわらかな気持ちに包まれた。

(私は疲れているのね。後ろめたいのよ。いつまでも続けたところで埒が明かないわ。もうそろそろやめなさいね)

(そうね、わかったわ。自分でもわかっているのよ。感情的に限界にきているのよ)

窓辺で育てているゼラニュームに水やりをしている時、ユウジから電話があった。

「ねえ、玉緒、鎌倉に行かないか」

「いいわよ」

鎌倉までドライブしている間中、ユウジはいつもより楽しそうで、穏やかだった。ユウジはいわゆる博識だったが、平均を遥かに上回るなんてレベルではなかった。

「ねえ、ユウジ。私あなたが何を言っているのか、全然わからないのよ。こんなこともわからない私相手に話していて、あなた何が楽しいの?」

「ああ、楽しいよ。どうしてそんなに刺々しいことばかり言うんだよ。最近の君はずっとこの調子じゃないか。いったいどうしたんだ。僕は君が目を輝かせて関心を持って話を聞いてくれるだけで、満足だし、楽しいんだよ。僕の興味に関しては、話せる相手は何人もいるんだ。話し相手には困ってはいないよ。僕は君が好きで、だから一緒にいたい」

(この人は何を言っているのかしら?人の気も知らないで・・・)

「好きにすればいいわ」

「充分好きにしているよ。楽しいだろう?この辺においしいって評判のお店があるから、寄らないか?」

「いいわね」

お茶をするのにちょうど良い時間帯で、鎌倉の景色はしっとり優しい趣で彩っていた。

ユウジが連れてきてくれたお店は、大正時代の洋館風のレストランで、美しかった。ユウジはコーヒーとイチジクのタルトを、玉緒はロイヤルミルクティーとブルーベリータルトを注文した。

玉緒は喉が渇いていた。車の中ではグルグルと悲壮感に支配されていた。
冷たい水を半分まで一気に飲んだ。そんな玉緒を見てユウジは笑った。