【無料ノベル】アジサイとラベンダー~後編~

c0119160_17542740

ベランダでラベンダーを育てた。イタリア製の鉢を幾つか買ってきて、ラベンダーの苗を植えた。
ラベンダーの種も蒔いた。私はせっせとラベンダーの世話をした。
ラベンダーは順調に育ち、ベランダ中がラベンダーでいっぱいになった。
私たちはラベンダーの中に椅子を置いて、ラベンダーに埋もれて、月や星を眺めながらながらお酒を飲んだ。
彼と出会う前、私はまったくお酒を飲まなかった。
彼が美味しいと評判の居酒屋に連れて行ってくれて、そこで初めて生ビールを飲んだ。
夏の暑い盛りということも大いに関係していたことは間違いないけれど、
そこの生ビールはすこぶる美味しかった。
料理とお酒の相性、おつまみとお酒の相性を、一緒に飲みながら、彼に教えてもらった。
私たちはラベンダーの香りに心が解れて、ほろ酔い気分で世界を眺めながら口づけを交わした。

「私あなたのこと大好きよ。世界中で一番好きかもしれないわ」

「しれないってどういうことだよ。一番好きなんだろう?」

「当たり前でしょ?」

「だったら毎日そう言ってほしいな」

「いいわよ。これから毎日言うわね」

たわいのないことを言って、笑って、熱くなって、
まるで思春期のラヴァーズのようにおどけている幸福は、何ものにも代えがたいものだった。

彼は私とのことで多くを失ったかもしれない。とても現実的な恋愛ではなかったから。
一緒に暮らし始めた頃は、時折、深刻な面持ちで遠くを見ている時があった。
そっとしておいてあげることしかできなかった。
30分も経つ頃には、私の名前を呼んで
「こっちへおいでよ」
と言った。
「一緒に暮さないか」と言ったあの日のように・・・。

一人でいることが嫌なのか、いつでも一緒にいたいようで、猫のようにピッタリくっついてくる。
たまには私も一人になりたくて、出掛けたら、2時間も経つと、
「ズボンが見つからなくて困っているんだ。どうしよう。30分以内に出掛けないといけないんだよね」
などど、見え透いた言い訳をこしらえて、電話をかけてくる。
言い訳は毎回、ズボンなので
「ねえ、今日はズボンじゃないわよね」
と言ったら
「違うよ、今日は靴だよ」と言う。
私はなんだかむしょうにおかしくなって、ちょっぴり哀しくなって、愛しくて、飛んで帰った。

それからいつものようにベッドで包まって、私たちは眠る。互いの鼓動を聴きながら。