【無料ノベル】アジサイとラベンダー~中編~

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彼はむじゃきに笑いながら、その目は確固として、真剣だった。

私は嬉しくて泣いた。頭のなかは真っ白で、すぐに言葉が出てこなかった。

「そうね。あなたの言う通りかもしれないわね。でもね、私、あなたに後悔してほしくないの。今はよくても、10年、20年経った時、あなたが後悔するんじゃないかって、とても恐いの」

「10年後も、20年後もぼくと一緒にいてくれるの?そんなに君が僕のことを想ってくれているなんて素敵だな」

「冗談でこんなこと言ってるんじゃないのよ。本気よ、私」

「ぼくも本気だよ。ぼくのことそんなに器の小さな男だと思っているの?二人で乗り越えていけばいいじゃないか。そのためのパートナーだろう?ちがう?」

レストランは最上階にあった。都会のネオンがきらびやかに光り輝き、風に波打つ海の夜光虫のようだった。
その日は私の誕生日だった。彼は誕生日には琥珀色の似合うレストランに連れて行ってくれた。

「お誕生日おめでとう」

銀色のリボンがかかった瑠璃色の箱の中には、ネックレスが入っていた。

「綺麗だわ。本当にありがとう」

「毎日身に付けてね。そしてぼくのことを思い出してね」

「ねぇ、前から思っていたのだけれど、私たちって、私が男っぽくて、あなたが女っぽいと思わない?もちろん中身のことだけど。だって、私、そんなこと思いつかないし、そういう感覚ないかもしれない。写真も持ち歩かないし」

「え、ぼくの写真も持ってないの?」

「家には飾ってあるけれど、でも持ち歩かないわよ」

「それじゃ、ぼくの顔見たくなったらどうするのさ?」

「頭のなかで思い描くのよ。写真を見るより、ずっとリアルに思い描けるわよ」

「まいったな。でもとにかく、ぼくのことが恋しくなったら、そのネックレスを触って思い出してほしいんだ」

「でも、一緒に暮らすようになったら、ネックレスに触れなくても、あなたのこと思い出せるわね・・・」

心臓の鼓動が、テーブルの向こうにいる彼に伝わるかもしれないと思うほど、高鳴った。

「そうだね・・・」

彼の目に涙がにじんでいた。

翌日、私は彼のマンションに引っ越した。私の荷物を運んだり、後片付けや、その他もろもろの手続きは
それから一週間ですべて完了した。
彼との生活は、幸せで楽しかった。同じ空間に彼がいるだけで私は満たされた。
朝ご飯は彼が作ってくれた。晩ご飯は私が作った。お昼は仕事で二人とも留守だったけれど、
たまに時間が合えば、二人でランチに行った。外で会う彼はちょっと別人に感じた。
仕事をしているのだから当たり前かもしれないけれど、仕事の日のランチタイムに会うなんてことは
一緒に住む前は、経験したことがなかったからか、仕事の匂いがした。セクシーだと思った。